木々の声を聴く 2018年5月

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樹々にとって成長の季節がやって参りました。

 

先日、工房の窓から空を見上げると5羽ほどの白鳥がぐんと高度を上げて北西の方向に飛んでいました。

青空の中を力強くもしなやかに、ゆっくりと羽ばたきながら。

きっと越冬を終えてシベリアへの移動の途中です。

3000kmから4000kmの渡りの旅。

自分の力だけでこれだけの距離の移動ですから相当大変なはずです。

なのに、その姿はとても優雅で、ちょっと仲間にいれて欲しい気分になります。

彼らが夏を過ごすシベリアの広大な湿地帯はどんな景色なのでしょうか。

美しい瞬間が沢山ありそうな、そんな気がして、見たことのない景色へと向かう彼らに少し羨ましい気持ちを抱きながら、飛んでいく後ろ姿を見送りました。

秋になれば新しい家族を連れてまたやって来るでしょう。

 

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大地の残雪はどんどんと量を減らし、空気の中には緑が混じり始めました。

樹々は成長の季節です。

 

樹は芽吹いてからしばらくの間、太陽光獲得の生存競争に勝つために生産したエネルギーのほとんどを背丈を伸ばすことに費やします。

15年から20年ほど経って自分の縄張りがある程度確保できると、幹に強さやしなやかさをもたらす物質を作り始める。ヒョロヒョロの身のままでは風雪に耐える事が出来ません。

大きくなればなるほど、強くしなければならない幹の容積は増えますし、日常で負う傷の補修や常に襲ってくる腐朽菌との戦いの量も多くなるで、それらへの対処にもエネルギーを使います。

そのため、見た目の成長速度は次第にゆっくりとしたものになっていきます。

 

一年一年、少しずつ背を伸ばし、お隣さんまでの距離があるなら水平方向にも枝を伸ばしながら樹木は大きくなっていく。

毎年少しずつ背を伸ばした結果、カリフォルニア州には樹高115mを超えるセコイアの樹があります。こいつは大阪の通天閣よりも高い。

太さでいえばメキシコに幹の幹周30mを超えるラクウショウという巨木が立っています。 大きな木を見ると抱きかかえたくなりますが、この樹を抱きかかえようとすると20人がかりというとんでもない太さです。

樹齢1000年を超える大径木の年輪は非常に詰まっていて、裸眼では数える事も困難なほど。

 

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樹齢でいえば4500年は超えているのではないかと推定されている樹が世界には何本かあります。

4500年前といえばエジプトのピラミッドが作られた頃。石でもあれだけ風化してしまっているのに、同じ期間生きている状態を続けているとは驚きしかありません。

屋久島の縄文杉も樹齢3000年から4000年ではないかと推定されています。

当時の日本はどんな様子だったのかと考えても「縄文時代真っ盛り!」程度にしか分かりません。

なかなか凄い時間です。

 

以前に屋久杉の一枚板を加工したことがあります。

屋久杉は樹齢1000年以上のものを「本屋久」、1000年以下のものは「小杉」と呼びます。

屋久島は現在伐採禁止になっていて、市場に出てくるのは以前に伐採されたものの切り株の部分か風倒木かのどちらかです。

永くゆっくりと育ってきた事を物語る目の詰まった木目。なにがしかの理由によって負ってしまった傷を補修しようとした事によって生まれたキラキラとした模様。

樹脂分の多い屋久杉はしっとりとした手触りで、そこから放たれる香りは爽やかさでありながら心を落ち着かせてくれるものです。

加工したものは500年程度と思われる小杉でしたが、材から放たれる雰囲気に誘われ、作業する手を止めてはしばらく木目に見入ってしまう事が何度もありました。

 

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森に立っているものでも、道具として使われているものでも、ある程度の年数を経てきた木には何か不思議な魅力があります。

厳しい環境を生き抜いてきた逞しさや、それを乗り越えてきたことから生まれる穏やかさのようなものを視覚的にも雰囲気的にも感じる事ができるからかもしれません。

材の中に現れる木目の表情は樹が生きた期間の物語です。

そして、語ってくれているのは実際その時その場所に存在した物質であるというのが面白いところです。

 

動物と植物の違いの一つとして、移動するかしないかというものがあります。

文字通り、動くやつか植わっているやつかです。

動物はそれぞれある一定の大きさになるとそのサイズを保つようにします。

大きくなりすぎると体を支える骨(昆虫であれば殻や膜)を作るのにコストが掛かり過ぎてしまうし、物理的にクリアできないことも出てきてしまう。

その為、代謝(新しい細胞作って、古いものは捨てる)という方法をとっています。 細胞の入れ替えの周期は組織によって違いがあり、骨は3年から5年ほどの間で全ての細胞が入れ替わっているとされています。筋肉は約2か月、胃は約5日、小腸は2日ほど。 すなわち、5年前の自分と今の自分とでは容姿はそんなに変わりませんが、物質としてはほぼ違うものになっているということです。(神経細胞の一部は入れ替わらないのではないかと考えられているので100%ではない。)

古い細胞は消化しきれなかった食料、消化する際にできてしまうアンモニアのような毒素、死んだりある程度活動した腸内細菌などと共に排出する。皮膚は垢として落としていきます。

 

一方、植物は動物とは違う手法をとっています。

植物は太陽の光を受けて光合成して生きていくわけですから、光を受ける面積は広い方がいいし、背丈も高い方が他のものの陰にならずにすむので体のサイズは大きい方が都合がいい。

移動しないので骨や筋肉のような組織もいりません。自分の体さえ支えられればいい。

そこで植物は細胞の周りにセルロースという物質を繊維状にして壁を作り、レンガ状にしてからピラミッドのように積み上げる方法をとっています。作りとしては動物よりも単純で簡単です。

レンガ工法で体のサイズを大きくしていくにはレンガの数を増やすか、レンガ一個のサイズを増やすかになります。

細胞を機能させる細胞質や細胞壁を作るにはコストが掛かってくるので、出来るだけこれらの生産量を増やさずに体のサイズを大きく出来れば理想的です。

そこで植物は新陳代謝で生まれる毒を含む老廃物を排出せずに液胞という袋に詰め込んで、かさ増し材として細胞壁の中に置いておくという方法をとっています。

細胞の中をパンパンに膨らませる事でサイズは動物の細胞よりも5倍ほど(容積では125倍程度)大きくする事ができ、しかも内圧が自重の圧縮力に抗する力となり体を支える役目も担います。細胞一個をもっと大きくしようとすると細胞壁が薄くなりすぎて壊れやすくなってしまうのでこの辺りが限界のようです。

樹が代謝によって出来た老廃物を外部に捨てるのは樹皮の部分と落葉だけです。あとは幹の中に貯め込んでいっているので、生きている間ずっと大きくなっていく訳です。

細胞として活動しているのは樹皮のすぐ裏側の部分で、活動期間は数週間程度です。 活動を終えると細胞質は次第に消滅していき、セルロースレンガは細胞としては死んでいて構造用としてのみ残っている状態です。

 

セルロースのレンガは他にも大きな役目があって、その一つが毒を貯めるという事です。

これによってただ突っ立っているだけの樹が他の生物にほとんど食べられない。

樹々は当たり前に立っているので普段はなんとも感じませんが、よく考えればこの自然の中で堂々と立ち続けるというのはなかなか危険な事です。

セルロースの繊維自体にもかなり巧妙な仕組みが隠されているようです。 セルロースは多糖類の炭水化物なので分解できると非常にいい栄養素です。しかしほとんどの動物はセルロースを分解する酵素を自分で作ることが出来ません。

分解されないように植物が何重にも手を打っているようですが、そのトリックはまだ詳しく解明されていません。

今の所はセルロースを分解できるのは菌類です。

草食動物も自分では消化できないので腸内細菌を腹の中に住まして分解してもらっている訳です。

人間も同じ事で、自分では酵素を作れないので100兆とも1000兆ともいわれる数の腸内細菌を飼いながら野菜を含める食物を消化しています。

シロアリや貝の仲間がわずかに分解酵素を自分で作れるようですが、自分で作れる量だけでは足りず腸内細菌の力も借りながら木質のものを食べています。

蝶々の青虫などは美味しそうに葉っぱを食べていますが、これもセルロースはほとんど消化せずもっぱら細胞の中にある僅かな細胞質から栄養を摂っているようです。

観察してみると、とにかくたくさん腹に入れて細胞質だけ摂取し、毒素は素早く排出する、という作戦のようで、むしゃむしゃと食べながら、同時に食べた量と同じくらいの糞をしています。

人間を含め動物が比較的植物の若い部分を好むのは、まだ成長した期間が短くて毒素が薄いという事が影響しているのかもしれません。

 

森でも街でも身近に樹は立っていますし、家庭の中にも道具として木は沢山利用されています。

その一本一本、その一つ一つの中に時間の物語があります。

語るのは世界のあちこちで、暑い日、寒い日、嵐に襲われた日、雷に打たれて弱った年、トラブルなく順調だった年、その様々な瞬間に存在し幹になっていった物質です。

時間を実際に見せてくれるというのは木という素材の大きな魅力です。

身近にある樹や、木で作られたものを見て、興味や親しみなどを感じた時にはその表情を見てやってください。

無言ではありますが、過去の瞬間を見せながら何かを語っていると思います。

 

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pat woodworking 岡田通人 profile

 

兵庫県西宮市で建築業に携わった後、pat woodworkingとして家具制作業にシフト。

大自然の広がる北海道黒松内町に工房を構え、たった一人で作業に取り組んでおられます。

 

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