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木々の声を聴く 2017年8月

wood.jpg

WILDSWANSのアトリエでは様々な岡田さんの木製品が使われています。

WILDSWANSの新アトリエが落成し、7月22日よりアトリエツアーも始まりました。

アトリエ建設の話を聞かせてもらったのは一昨年の冬の終わり。

そして、アトリエ内で使用する木製品を作らせてもらえる事となり、製作に取り組んできました スタッフの皆さんが日々気持ちよく仕事できる機能とカタチを模索して、作って、出来上がればトラックに積み込み、フェリーに乗って北海道から茨城のアトリエへ。

帰ったらまた作って、積み込んで、フェリーに乗り込む。

これを10回ちょっと繰り返しました。

作業用のテーブルやデスクから小さいものではゲスト用のお箸も作りました。

 

北海道から向かうと太平洋航路でも日本海航路でも大体20時間弱のフェリー移動です。

船の中では次に提案するもののスケッチを描いたり、図面を引いたり。

上手くアイデアが出なくて行き詰まれば、昼から海の景色を眺めながら風呂に入って気分転換。

風呂から上がればビールで喉を潤して、また構想を練ったり、すこしゆっくり本を読んだり。

少しゆったりした気分になる船の中の時間はお気に入りで、いつもあっという間に過ぎてしまいます。

しかし、荒天の時はちょっと様子が変わる。 海が荒れると大きなフェリーでも結構揺れます。

船体に波が叩きつけられ、時折「バーン、バーン、」と船内に打撃音が響き渡り、船内を歩けば、あっちにフラフラこっちにフラフラ、上手く歩けない。

危ないので風呂も閉鎖されたりします。 上下左右にユラユラする中、スケッチブックやパソコンの画面を見つめていると何だかちょっと酔いそうな気配がしてくる。

普段は乗り物酔いなど一切しないけど、荒れた時の船はちょっと危ない。

「集中できん。」と横になると、揺れはかなりハードロックな感じでも揺りかごの中はなんだか眠たくなってきます。

しばらくして浅い眠りから目を覚ますと再び何かに手をつけ、また酔いそうになって、横になってウトウトする。

それを2,3度繰り返し、やりたかった事が全く進まぬまま港に到着。

風や波は自然の事だから仕方ないのですが、荒天の船旅はいつもちょっと損をした気になります。

 

 

 

 

実はこの文を書いている今もフェリーの中です。

目の前には大きな海が優しい円弧を描いて広がっています。

今日の海はとっても穏やかで、感じるのは船体を伝うディーゼルエンジンの振動だけです。

パソコンの横にはちゃんとビールがあるし、バックの中には読みたい本もあります。

おまけに今回の船旅では久しぶりにイルカの姿も見かけました。

いい気分です。

フェリー.jpg

 

 

 

アトリエ用に製作したものの多くは、今回新しくデザインしたものです。

その中からいくつか紹介させて頂きたいと思います。

 

まずは、ミシン作業用の椅子。

一般的な椅子と比べると座面の奥行きがかなり狭い仕様になっています。

ミシンチェア.jpg

集中して縫製している間、職人さんは息をつめているか、浅くゆっくりと呼吸をしています。

一工程が完了すると深く息をし、緊張を解きます。

その際に一度背もたれに体を預ける事も多い。 この時、座面の奥行きが深いと凭れた状態から作業体勢に戻る時に「ヨッ」という大きなアクションが必要になる。

この余分な動きが作業への集中力を途切れさす原因になるという事で、簡単に体勢を戻せるようにぐっと浅い奥行きの寸法設定としました。

職人さんたちに作業時間を気分よく羽ばたいてもらいたいという思いで製作したので、この椅子は、『Flap』という名にしました。

 

 

 

 

ミシン用の椅子の座面を大きくして、背もたれと座面にサドルプルアップを縫い付けたこの椅子はスタッフルームで使われています。

昼食や休憩時にゆっくり羽を休ませて欲しい。
レザーチェア.jpg

白鳥たちが休む池のような存在として使ってもらえればという思いを込めて『Pond』と としました。

 

 

 

 

こちらはゲストキャビンに設置されているテーブルです。

circle table.JPG

使用時に膝が当たりにくいよう脚の角度をきつくしています。

脚は大きく開くと強度が落ちていきますので補強部材を入れていますが、その形状がこのテーブルのアクセントになっています。

以前に科学誌か何かで見た超新星爆発の時の予想図がこの脚の意匠とよく似ていたので『Super nova』と呼ぶことにしました。

 

 

 

超新星爆発.jpg

太陽の10倍程度以上の質量を持つ恒星は一生を終える時に重力崩壊によって大爆発します。

この超新星爆発による衝撃波で恒星の外層部で猛烈な核融合反応が繰り返され、様々な元素が生み出されます。

そして、それら新しく生成された元素は爆発力によって宇宙空間に飛び散っていく。

飛び散った元素はまた時間を掛け、集まり、新しい星になる場合もあります。

惑星や衛星になればそこに新たな生命体が誕生する可能性ももちろんあります。

 

天文学者のカール・セーガンは「We are made of star stuff.」(私たちは星屑でできている)と言っていました。

私たち人間を含めた全ての生物、また、山も海もマグマも空気も水星も冥王星も、みんな遠い昔に爆発した星の欠片から成っています。

今の自分の体を構成している物質がかつては宇宙空間を漂っていたなんて、なんだか不思議だけどとっても愉快な気分になります。

 

 

 

こちらもゲストキャビンに設置したキャビネット。

造形作家の鯱丸邦生さんとのコラボレーション作品です。

キャビネット1.jpg

設計当初は市販されている扉金物から選ぼうと思っていたのですが、どのカタログを開いても「使いたい」と思わせる物が見つかりませんでした。

機能自体は問題ない物もあるのですが、扉を開けた際に外観がいいとは言い難い金具部分が露出してしまったり、安っぽい樹脂のカバーが見えてしまったり。

安易に選択してしまうと、せっかく多くの人の思いと手を通して作り上げてきたこの建物のいい雰囲気をぶち壊す事になりかねない。

「ないのなら自分たちで作るしかない。どうせ作るのであれば今までにないモノを!」と創造の世界を二人で迷走することにしました。

キャビネット2.jpg

動的な要素があればこの遊び心が沢山詰まった建物によく合うのではないかと思い、滑車を利用して開閉させることに。

滑車はWILDSWANSの製品に付属しているスリッカーを加工して使用、また、両側でバランスをとる真鍮製のおもりと扉を繋ぐのはミシン用の革ベルトを使いました。

扉側の滑車が動滑車として働くので、扉を上げる距離に対しておもりはその倍の距離下がり、開閉時には変化のある動きが現れます。

アイデアを出し合いながら、このアトリエに融け込むカタチを作っていく過程は刺激的かつ魅惑的な時間でした。

作っている最中は「上手く仕上げる事ができるのか?喜んでもらえるだろうか?」という不安も結構あるので疲労もしますが、終わってしまえばすぐに「また、このような仕事をしたい!」と不安定で安全でない方向にスキップしながら向かって行ってしまいます。

ある意味「悩む、惑う」というのと「オモロイ」というのは同義なのだろうなとよく思います。

 

このアトリエから生み出されるWILDSWANSの製品は様々な場所へと向かうのだろうと思います。

スタッフの皆さんの思いもしっかりと乗っかって。 超新星爆発によって生まれる物質のように、それらは行きついた先で影響を与え、また何か新しい事が始まるきっかけになるのかもしれません。

刺激が刺激をよんで、心湧きたつオモロイ未来が広がっていって欲しいと願います。

 

僕自身、この2年半ほどの間に、スタッフの皆さんをはじめ、本体の建物、ゲストキャビン、造形、音楽、映像、写真と様々な方面からこのアトリエを作ってきた人たちやWILDSWANSに関係のある人たちから大量のエネルギーを貰ってきました。

折角もらったエネルギーです。

なんとか上手く爆発させ、より遠くまで飛ばす役割を担わなければと思っています。

 

pat woodworking 岡田通人 profile

 

兵庫県西宮市で建築業に携わった後、pat woodworkingとして家具制作業にシフト。

大自然の広がる北海道黒松内町に工房を構え、たった一人で作業に取り組んでおられます。

 

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