木々の声を聴く 2017年 3月

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青い空が広がる日が増えてきました。

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緯度が高い事と湿度が低いという理由から北海道の空は本州よりも青みを強く感じます。

残雪の白と濃い青空というコントラストの強い景色になるとこの辺りの春が始まります。

濃い青空は眺めていると、いつもより少し宇宙に近づいたような気がしてちょっとワクワクします。

 

ただ、桜の咲く景色には本州の少し淡い青空の方がぴったりな気がします。

背景が濃い青だと薄い色の花は白なのかピンクなのか分かりにくくなってしまう。

淡い青だと繊細な色の花々が際立つし、全体的にも優しい春の雰囲気に合っているように感じます。

住んでいる頃には当たり前で見逃していたけど、離れてみて気づいた春の調和の一端。

 

この辺りの桜が咲くのは大体ゴールデンウィークが終わる頃なのでもうちょっと先の話。

桜も他の種の木々もまだ芽を膨らませている段階です。

 


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現在の北海道に生えている樹は、ほとんどが植林されたものです。

建築材用のエゾマツ、トドマツ。炭鉱の杭用に植えられたカラマツ。パルプ用の白樺などが多い。

江戸時代後期から始まる開拓以前にはナラ、カエデ、タモ、カバ、ニレ、カツラ、カシワなどなど多種の広葉樹も混生する原生林が広がっていました。

畑や牧草地などの開けた土地もないので、今の北海道の「広い」というイメージとは随分違う景色だったと思います。

でも、違う意味での「広さ」を感じられたのではないかと想像します。

原始林、原生林では樹齢何百年という樹が当たり前にあります。

1本1本の樹が相当に大きく高く、それら1本が使う地面の面積も広い。

なので、私たちが当たり前に想像する森林よりも樹と樹の間隔が広く、視界的にもかなり奥まで見渡せたはず。

何人か並んで思いっきり走れるくらいのスペースのある個所も多いと思います。

キラキラと光る木漏れ日を体に浴び、鳥たちの歌声に包まれながら、広い空間を持つ林の中を全速力で走るなんて想像するだけでいい気分です。

 

ここでちょいと北海道を離れ、本州に目を向けてみます。

本州の雑木林を眺めてみると、生えている樹種は北海道とほぼ同じです。

緯度による植生の変化はないわけではありませんがごく僅かです。

しかし、「何かが違う」と感じるのも確かです。

 

北海道からフェリーで行き、下船して走り出すとすぐ「本州に来た」と感じます。

建っている住まいの趣が違うという事もあるでしょうが、海岸線のクロ松、アカ松の存在も違いを感じさせる一因に違いない。

風の形を抽象した1つの作品のような佇まい。

また、その姿は風に抗う逞しさも感じます。 松のある景色はいいものです。

三陸の海岸線なんて本当にいい雰囲気です。 もし三陸海岸に松が無ければ、そこは全く違う景色に映るはずです。

 

松は潮風に対して強いのでかなり古くから防風林として植林されていて、それが自生化している場合もよくあります。

浮世絵にもよく出てきますが、絵になる上に強い樹です。

 

 

 

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クロ松、アカ松は北海道では南部にしか生えていないのであまり見慣れません。

慣れない景色で、しかもインパクトのあるものを見ると「自分たちの所とは全然違う地域」と解釈しがちです。

しかし、北海道にも松属の樹は多くありますし、林全体として見れば違いは僅かです。

安易な思い込みで「違うモノ」と簡単に片付けてしまうと、理解の広がりがなくなってしまう。

 

もうちょっと遠くに視線を向けて、ユーラシア大陸や北米にも目を向けてみます。

山には針葉樹のパイン(松)、ファー(モミ)、シダー(杉)。

広葉樹のオーク(ナラ、カシなど)、メープル(カエデ)、チェリー(桜)、アッシュ(タモ)、バーチ(カバ)、エルム(ニレ)などなど日本に生えている樹と同属の樹が沢山あります。

加工する際に感じる香りや硬さも同属のものはとてもよく似ています。

海外の自然の景色を見ると日本とは全然違うような気がしますが、樹木という面から見てみると、そんなに違いはありません。

ただ、違いの幅は北海道と本州の差よりは大きくなっています。

「木だからどこでも一緒」と簡単に考えるのもまた危険です。

なぜ同じような植生であるかは過去を見てみると理解できます。

ちょっくら時間旅行に行ってみましょう。

 

とりあえず、40億年ほど前まで行ってみます。

地球が誕生してから6億年が経った頃、海でDNAの元になる分子が生まれた。

ここから生命のドラマが始まります。

時が経つにつれて分子は複製するのが上手くなり、その分子が集まって集合体を作るようになる。

これが細胞の始まりです。

細胞は分子の工場のようなもので、工場名は「葉緑体」。仕事は光合成です。 これらが藻類に進化します。

私たち生き物、みんな祖先は「藻」です。

ミミズもオケラもアメンボも友達どころか遠い親戚。

人間もイグアノドンもジャガイモも松の木もタンポポも、みんな同じ繋がりの上にいる。

 

海での藻類の時代は30億年続き、陸地には何もいなかった。

陸地に上がって、原始的な植物にまで進化したのが4億5000万年前。

4億年前頃には根と葉という器官を作り、3億6000万年前頃に種子ができます。

この頃には森林を形成できるようになり、この頃の地層から掘り出されている植物の化石が石炭です。

そして2億年前に花という機能を持つ種が生まれます。 その頃の地球はどんな景色だったんでしょうか?

きっと今よりシダ植物は多いでしょう。

誕生間もない花はカラフルなんだろうか。それともシンプルなんだろうか?

恐竜の時代が始まっている。彼らはそこら中にいるんだろうか?

 

想像すると止まらない2億年前、大陸はまだ1つでした。

この頃にアフリカの南部から南極、オーストラリア、インドになる部分と分裂を始めます。

ヨーロッパ、グリーンランド、北米と北半球が分裂したのは5000万年前。

意外と最近の話です。

この間、生物の進化は進み続け、種は相当に増えています。

この頃までに種として現在とあまり変わらない姿に進化していたと考えると、今の北半球の森林が同じような植生であって何の不思議もありません。

 

北半球と赤道付近や南半球を比較すると種の違いが大きくなります。

緯度の差で環境が違う事と大陸の移動の時期が古い事の両方が影響していると考えられている。

でも少し視点を広げて生物としてみれば、同じような裸子植物、被子植物です。

北半球内で比較するよりも相違点は増えますが、樹木として共通点は盛り沢山です。

どんなものでも実体を見定めるのはなかなかに難しいものです。

共通と相違がこんがらがっている。

 

地域や生活に関しても同じ事が言えると思います。

海外に行くと「違い」を強く感じます。

人は好意を持っている地域であれば、違いに対して憧れの感情を抱きます。

自然が豊かな地域に行けば、そのさまに大きく感動するし、歴史のある地域に行けば古くからの人々の繋がりに心を揺さぶられます。

色彩が豊かな家屋、またはシンプルではありながら洗練された雰囲気の建物。

ゆったりとした生活を送る人々、または男女が平等にいきいき仕事に励む人々の様子。

その状態や方向性が違っていてもあまり気にせず、肯定的に受けとめます。

でもここでしがちなのが「ここが素晴らしいのはここだから」と安易に線引きをしてしまう事です。

努力も挑戦もせずに「自分の所では無理」だと諦める。 線引きから生まれてくるのは劣等感と閉塞感です。

線を引くのはとても簡単ですが、せっかく受けた感動が何の役にも立たなくなってしまうので非常にもったいない。

好意のない対象に対しての安易な線引きはもっと醜い。 「相手が悪い。反対側だから自分たちは優れている」という勝手な解釈をする事が多い 生まれるのは他の価値観への否定と偏執的な自己愛です。

 

「違う」という先入観を捨てて、「共通」のものを照らし合わせていくと面白いものです。

線引きを外していくと、意外と共通点ばかり。

髪や肌の色が少しだけ違うけど、体の機能はどこの人も同じです。

暮らしに求めているもの、感動や悲しみで涙するポイント。

暮らしで使う道具や家屋などの基本的な形状。 大概一緒です。

でもどこかに相違はあるでしょう。きっとそれは結構小さなものです。

線引きをしていたから大きく感じていただけの事。

 

離れた地域にある小さな違いは、自分たちの地域では育ってこなかった素晴らしい視点であるかもしれないし、逆に異国の憧れに過ぎず、これからは必要のない古臭いものであるかもしれない。

いいものなら取り入れ、いらなければ捨て去ればいい。

小さな違いをお互いに探しあえば、人は今よりも格段に理解し合えるはずです。

 

動物や植物の自然に対しても同じ事。 出来るだけ理解し、共に歩んでいかなければならない。

完全に理解する事は不可能でしょう。でも理解する努力をする事で人は今よりずっと優しくなれるはずです。

 

 

 

もう少しすれば木々の芽も吹きはじめ、新緑のいきいきした景色に包まれます。

夏の渡り鳥達もやってきてこの春も賑やかになるでしょう。

工房内はポカポカしていて作業のしやすい季節になりました。

出来るだけ充実した時間が過ごせるようこの春も張り切っていこうと思います!

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pat woodworking 岡田通人 profile

 

兵庫県西宮市で建築業に携わった後、pat woodworkingとして家具制作業にシフト。

大自然の広がる北海道黒松内町に工房を構え、たった一人で作業に取り組んでおられます。

 

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