ポイントは、オレンジジュースでしっかりマリネすること。レモンの香るを添えたズッキーニのクリームと、鶏のオレンジの香りと調和します。かりっと焼いた鶏肉とふんわりしたズッキーニクリームのコントラストも楽しい一皿です。白ワインとパンがあれば、簡単なおもてなし料理にもなります。
オレンジは年中手に入る果物ですが、オレンジの旬は秋から始まります。
オレンジと言ってまず思い出したのは、シチリア島です。イタリア半島と、アフリカ大陸チュニジアに挟まれた地中海に、三角形の島が浮かんでいます。
秋のシチリアは、柑橘シーズンの始まりです。日本から渡った早生りのミカン類も栽培されており、オレンジ類、そしてシチリアならではの果肉が赤いブラッドオレンジ類と、冬になるまで様々な柑橘類の収穫シーズンが続きます。柑橘類を愛するシチリア人にとって、秋はとても嬉しい季節の幕開けだそうです。
柑橘類の美しく頑丈な外皮は、中身をしっかりと守り、長時間持ち歩いてもフレッシュな味が楽しめ、糖分やビタミンの補給に役立つことから、地中海を行き来するシチリア人に携行され、重宝されてきました。
シチリアをルーツに持つ映画界の巨匠、コッポラ監督もオレンジを効果的に映画の中で使っています。代表作『ゴッドファーザー』では、画面にオレンジが映ると、その直後のシーンで一人、もしくは複数の人間が悲劇に見舞われるのです。ドン・コルレオーネが彼の庭園で亡くなるのも、オレンジを絞ったすぐ後でした。コッポラ監督のルーツ、故郷への複雑な思いがオレンジを悲劇の符号として映画に登場させたのか、はたまた、秋の果物オレンジのイメージを、すべてのものが枯れる秋、という季節に重ね合わせていたのでしょうか。
アジアが原産であるオレンジは、中国の詩人、杜甫にも謳われています。
"田園に広がる無数のオレンジが、秋の日を香り高くしてくれる。美しい草原に座ると詰めたい霧が気持ちよく、リラックスできるなあ"と1200年ほど昔の情景を私たちに伝えてくれています。冷たい空気にふわりと香るオレンジ、考えるだけでも気分がよくなります。
芸術、文学の分野でも、オレンジに関するエピソードは事欠きません。
料理の分野ではもちろん、歴代の料理人達がオレンジを使ってレシピを考えてきました。
秋の味覚、オレンジを使った料理のレシピです。
材料 4人分
所要時間 30分 マリネ時間 2時間〜一晩
まず、付け合わせのズッキーニのクリームから作りましょう。
材料(ズッキーニのクリーム)
ズッキーニ 2本
エキストラバージンオリーブオイル 大さじ2~3
レモンの絞り汁 大さじ2~3
塩
- フライパンにオリーブオイルを熱し、1センチのダイス状に切ったズッキーニに、ゆっくり中火を通してゆく。10分ほど。軽めに塩を振って味を整えたら、フードプロセッサーかミキサーへ入れる。大さじ2~3杯のオリーブオイル、レモン汁を加えて撹拌する。
- ツヤのあるクリーム状になったら、出来上がり。
材料(鶏のオレンジソテー) 鶏胸肉 2枚大きめのもの
*鶏胸肉を使いましたが、鶏もも肉でも美味しく出来る。
オレンジのマリネ液(オレンジジュース300ml+エキストラバージンオリーブオイル60ml+はちみつ大さじ2+塩一つまみ)
パン粉(無ければ小麦粉でも)
オレンジの皮をすりおろしたもの
タイム(3枚分くらい、もしくは粉末のもの)
塩、こしょう
ソテー材料
マリネ液材料(ブラッドオレンジジュースを使ってみました)
鶏のオレンジソテー 作り方
1.まず、オレンジジュースでマリネ液を作る。胸肉が浸かるように、中くらいのボールか深いお皿を用意する。マリネ液の材料すべてを入れてスプーンでよく混ぜる。
鶏の胸肉をつけ込み、オレンジの風味が染み込むよう、つけ込むべき最低2時間の間に数回、鶏肉をもむことが美味しくなるテクニック。ラップをして、冷蔵庫へいれておく。2時間から一晩漬けておく。
2.用意したパン粉に、塩、オレンジの皮をすりおろしたもの、タイムを手で良く混ぜ込む。
3.最低2時間マリネしておいた胸肉を取り出し、2のパン粉を両面につける。パン粉がなければ小麦粉を両面に薄く付ける。
4.フライパンにオリーブオイルを熱して、パン粉のついた胸肉をじっくりと焼く。弱火でゆっくり焼くことで周りがかりっとする。フライパンにしく油は多めで焼く。
5.盛りつけは、薄めに切って、ズッキーニのクリームの上に並べると、華やかになって、食べやすい。
長かった夏、終わってしまうと寂しいようなホッとしたような。この時期に体に気を使うのが健康の秘訣だそうです。普段、お仕事や諸々忙しい皆様も、どうぞご自愛下さいませ。
深まる秋を、食を通じて感じていける、贅沢な季節になりました。
稲葉めぐみ
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Ebony sugar cat(=えぼねこ)という屋号で、徳之島の美味しい黒糖を使ってイタリア菓子を作っています。